閃きや感性も大事だが、計画をたてて物事をすすめる、というのはとても大事なことだ。
そもそも計画を立てる、とは段取りの確認だけでなく、トラブルなど想定外の事態が起こった際の対策ができるなどのメリットもある。
それはビジネスをする上でも大事なことで、「何が起きてもおかしくない」と言われているVUCA時代だからこそ、きっちりと計画を立てることでリスク回避をしながら事業の舵取りをすることができるのだ。
今回皆さんに紹介したいのは、非常に分かりやすい形で事業設計ができる「リーンキャンバス」について説明したいと思う。
この記事を読み終わる頃には、リーンキャンバスの意味が理解できるだけでなく、リーンキャンバスの書き方もわかるだろう。
ビジネスに携わる方、事業を始めようとしている方、そして経済を勉強する方すべての方にとって有益な情報となるので、ぜひ読んでほしい。
もちろん、当メディアが大事にしている「わかりやすく」を前提に説明していくのでご安心いただきたい。
リーンキャンバスとは?
リーンキャンバスとは、9つの要素からなるビジネスモデル図のことをいう。
「9つの要素」については後ほど詳しくお話しするが、そもそもリーンキャンバスの設計したのはアッシュ・マウリャという人だ。
アッシュ・マウリャ氏は、USERcycleの創業者であり、マサチューセッツ工科大学、ハーバード大学などで講義を担当するほか、多くのスタートアップ企業のアドバイザリーボードに名を連ねるなど、活動は多岐にわたる。
なるほど、これを聞けば「リーンキャンバスとは、めちゃ頭の回転が早い人が作ったフレームワークなんだな」ということが分かっていただけただろう。
リーンキャンバスの目的とは?
リーンキャンバスを作成する一番の目的は何かというと、ざっくり言ってしまえば「始める事業が成功するのかどうか?そもそもどんな事業をやりたいのか?」ということを突き詰めていく分析シートのようなものだ。
例えば、あなたは頭の中で「みんながアッと驚くオムライス屋さんをやりたいなぁ」と思っていたとする。
リーンキャンバスはそんなあなたの漠然とした思いを下記のように分別して顕在化させてくれる。
・みんなが→誰に?どうやって「アッと驚くオムライス」を認知させるの?
・アッと驚く→どんな方法で?なぜアッと驚かせる必要がある?ニーズがあるの?
・オムライス屋さんをやりたいなぁ→なぜオムライスなのか?流行しているのか?
こんな感じだ。
リーンキャンバスを構成する9つの要素に置き換えると、もう少し具体性があるのだが、このように事業内容を分別し、整理することによって俯瞰的に見ることができる。
また、リーンキャンバスを使えば、事業を始めるにあたって重要な部分の確認もできるため、チェックリストとしても重宝する。
リーンキャンバスを構成する9つの要素と書き方を紹介
さて、それでは皆さんが気になっていたリーンキャンバスの9つの要素を紹介していく。
それと合わせて、個々の要素についてどのように記入していけいいのか?についても説明していこう。
1.課題
「安くて、短時間で腹を満たしたい、でも美味しいものが食べたい」というユーザーの課題を解決するために牛丼チェーン店が誕生したように、いつの時代でも、ビジネスになる第一の理由がユーザーの課題や問題を解決できるモノやコトであるということだ。
リーンキャンバスでは、ユーザー(顧客)が抱えている3つの課題を挙げることが求められている。
2.顧客セグメント
「セグメント」という言葉が出てきたが、要するにターゲットにしているユーザー(顧客)ということだ。提供するモノ・コトが誰に向けられているか?
誰に向けたものなのか?希望的観測も含める。
例えば、あなたが芋羊羹を売りたいユーザーは10代の女子高生なのか?あるいは50代以降の婦人なのか?そういった設定を細やかにする。
3.独自の価値提案
独自の価値提案というのは、簡単に言いてしまえばキャッチフレーズであったりコーピーライティングのようなものだ。
例えば、松屋の「みんなの食卓でありたい 松屋」やマクドナルドの「i’m lovin’ it」などがそうだ。
差別化できるポイントをわかりやすく、キャッチーに伝えられるかが重要で、9つの要素の中では一番頭を悩ませるところだろう。
“どうしてユーザーは他ではなく、自分たちを選んだのか?”ということを考えてみると糸口が見つかるだろう。
4.ソリューション
ソリューションとは、「答え」や「解決すること」のような意味合いがある。
ここでは、最初の段階で書き出した「課題」についてのソリューションを導きださなければならない。
ここでのポイントは「課題に対して、自分たちのやり方(オリジナル)で解決する方法」を考えることだ。
そうすることで、独自性が高まり、ユーザーはより利用してくれやすくなるだろう。
逆に、すでに他者がやっているようなソリューションを導き出すと、途端に価値が下がってしまう。
何度も言うが、“どうしてユーザーは他ではなく、自分たちを選んだのか?”がとても重要だ。
5.チャネル
ここでは、こちらが提供するモノ・コトをどうやってユーザーに届けるのか?売り出すのか?告知をするのか?などの方法を決めていこう。
この時、序盤で設定した「顧客セグメント」を考慮した上で決めていく必要がある。
なぜかって?よく考えてみてほしい。下記に書き出した問いかけについて考えてみれば、答えは自ずと出てくるだろう。
「50代以上のユーザー中でTiktokやinstagramを使う割合は高いだろうか?」
「タピオカを売るために、ポスティングは効果的なのか?」
6.収益の流れ
ビジネスをする上で忘れてはならないのが「儲けが出せるかどうか」だ。
収益化できるポイントや、何の収入が収益化となるのか?まで具体的にイメージして策定しよう。
7.コスト構造
収益化の流れを考えたら、併せて実際にかかるコストの洗い出しもしよう。
例えば人件費、材料などの原価、モノ・コトを顧客に届けるためのコスト、あるいは顧客を獲得するためのコストなど…価値をユーザーに届けるために必要な費用はなるべく細かく書き出せると良い。
8.主要指標
価値をユーザーに届け、事業を軌道に載せるための目標を掲げていこう。
当面の大きな目標があったとして、そこに近づいていくためのKPIを決め、記入していく。
KPIとは達成したい目標に対して、「どのぐらい達成できているのか?」を示す指標だ。
ものすごく簡単なたとえではあるが、「オムライス屋の目標売り上げを100万円にする」という当面の目標があったとすると、KPIは「一つ1,000円のオムライスを1,000個売る」「客数を1,000人にする」などになるだろう。
大事なポイントは具体的な数字を挙げ、それに基づいてKPIを決めていきことだ。そうすれば達成度合いの精度は高まる。
9.圧倒的な優位性
さあいよいよ最後の要素の記入に取り掛かろう。
ここでは、「他では真似できない自分たちだけの強み」を書き出していく。
真似できない、ということはコピーできないし、お金を出せばノウハウが知れる、ということでもない圧倒的な優位性(独自性)のあるモノ・コトが理想的だ。
料理の世界であれば、この「真似できない味」などで圧倒的な優位性を書き出しやすいのだが、アプリケーションやシステム開発だとすると設計構造自体はある程度真似できてしまう。
この辺りを理解した上で記入していこう。「そんなこと言われても、なかなか出てこないよ」という場合であれば、一旦空欄でも大丈夫だ。
リーンキャンバスとビジネスモデルキャンバスは違う?
「リーンキャンバスについて調べたら、ビジネスモデルキャンバスっていうのも出てきたけど…これは一体?」と戸惑う方もおられただろう。
が、しかし心配はいらない。これからわかりやすく説明していこう。
ビジネスモデルキャンバスというのは、リーンキャンバスに似ている9つの要素でできているビジネスモデルで、二つは全くの別物である。
リーンキャンバスは事業内容のベースコンセプトや詳細を記入していくのに対し、ビジネスモデルキャンバスはビジネス環境を取り巻く「相関図」のいようなイメージで記入する。
ビジネスモデルキャンバスの方が、より具体的にターゲットである顧客や、取引する業者、細やかな収益・コスト構造を明らかにするため、事業を発展させていくために適しているフレームワークだ。
対して、リーンキャンバスは事業の独自価値や優位性、どういう顧客をターゲットにしていくのか?どういう流れでモノ・コトを提供していくのか?などを発想するフレームワークであるため、新たな事業を始めるのに有効なフレームワークだと言えるだろう。
本来なら、両者の違い、という形で説明するのが正しいのかもしれないが、リーンキャンバスの生みの親であるアッシュ・マウリャは、リーンキャンバス とビジネスモデルキャンバスそこにプラスしてデザイン思考を取り入れていくことが大事だと言っている。
In order to achieve breakthrough innovation, you shouldn’t be limiting yourself to any one of these frameworks, but rather using all…
引用元:LEANSTACK
翻訳すると、「画期的なイノベーションを実現するには、これらのフレームワークのいずれかに限定するのではなく、すべてを使用する必要があります…」と述べているのだ。
出典:
https://blog.leanstack.com/content/images/size/w2000/max/800/1-YJdgtTJFu5B_adSN3vi45w.png
これをわかりやすく解説すると、それぞれのフレームワークが持つ側面の交わるポイントがイノベーションの最適解である、ということだ。
それぞれのフレームワークが持つ側面は以下の通りと明記している。
・リーンキャンバス 「実行可能性」:ちゃんと事業ととして成り立つのかを検証
・ビジネスモデルキャンバス「実現可能性」:ちゃんと収益を確保し続けることができるのか分析
・デザイン思考「望ましさ」:”こうなったらいいのに”をデザイン思考のプロセス間を往来しながら画期的なアイデアを生み出す
圧倒的な優位性や独自の価値提案を行うには、画期的なイノベーションの実現が必要だが、「リーンキャンバス 、ビジネスモデルキャンバス、デザイン思考」3つのフレームワークを使用すれば、それを可能にするだろう。
デザイン思考については、当メディアで紹介しているので、気になった方はこの記事を読了したのちにご覧いただければ幸いだ。
リーンキャンバスで失敗しにくくなる4つの方法
リーンキャンバス を記入する上で「うまく記入できない」なんてこともあるだろう。うまく記入できないということは、リーンキャンバス を使った事業計画ができないという残念な結果になる。
そうならない為に、失敗しないための方法を伝授する。とはいっても失敗することで得られることもたくさんあるし、これを読んだからと言って絶対に失敗しないというわけでもない。
冒頭にも述べたが、それだけ今の社会は”何が起こるか分からない世の中”なのだ。
しかし、石橋を叩いて渡る術を知っているのと知らないのとでは違う。備忘録として心に留めてもらいたい。
①慎重になりすぎてしまう
「先ほど、石橋を叩いて渡る術を知っておいた方が良いみたいなこと言っていたくせに…」とヘソを曲げずにまあ聞いてほしい。
例えばリーンキャンバス にあるようなユーザーの抱えている問題や課題を洗い出す際に”細かすぎない”方が良いということだ。
細かすぎると何事も前に進めなくなる。リーンキャンバス の良いところは柔軟に軌道修正できるところだ。恐れずに歩みを進めていこう。
②スタートしようとしている事業の知識が充分ではない
リーンキャンバス の記入を始める前の話になるが、新規事業を立ち上げる際に、その分野に対して知っているのか?はとても重要だ。
その分野において競合はどうなのか?収益モデルはどうなのか?などをある程度把握できていれば、独自の価値提案についても考えられるだろうし、コスト構造も少しずつ明確にできるなどプラスに働くだろう。
併せて、新規事業を立ち上げるという熱量の持続性も非常に大事だということをお忘れなく。
③ペルソナ、ソリューションありきで考えないようにする
ペルソナとは、実際には存在しないがリアリティを持たせた人物設定をすることだ。そしてソリューションはすでに説明した通り、「回答」「解決策」である。
リーンキャンバス においては、顧客の抱えている問題や課題を解決するという明確な項目があり、リアルな人を通して共感や観察といったプロセスを行うのが必要不可欠だ。ペルソナを設定して「当てはまる人」を逆算するのは向いてないことが多いだろう。ソリューションありきで考えることについても、誰の何を解決できるのか?を考えなければリーンキャンバスを描くことが出来ない。
④独自の価値提案がざっくりしすぎている
これはよくあることで、例えに牛丼が多くて恐縮だが、「早くて安くてうまい牛丼を提供する!」という独自の価値提案を考えたとする。
「早くて安くてうまい牛丼を提供する!」を欲するユーザーは「早くて安くてうまい牛丼を食べたい人」とするのであれば、それはすでに競合の牛丼屋が提供しているだろうし、入れ替わりの早い飲食業界では直ぐに淘汰されてしまうだろう。
牛丼の例についてもう一歩踏み込んで考えると、「渋谷区内であれば、いつどこにいても15分以内にコスパ最強の和牛牛丼が食べられる」という価値を提案し、「渋谷区内で働くランチ時間が不規則になりやすい20代〜30代のサービス業に従事している人」という風にすると独自性が増す。
まとめ
リーンキャンバス について、そして書き方の解説を行ってきたがいかがだったろうか?頭の中だけで描いた事業を現実に立ち上げるのは非常に困難であるし、とても危険である。
リーンキャンバス を使って空想の事業を見える化することによって、俯瞰的に分析をすることもできるし、足りなかった部分を補うこともできるのが大きなメリットだ。
しかし、リーンキャンバス だけ使いこなせれば良いというわけではなく、アッシュ・マウリャも言っていたようにビジネスモデルキャンバスとデザイン思考の3つをマルチに使いこなすことによって、画期的な事業を生み出すことができるし継続することができるのだ。
これを機会に、ビジネスモデルキャンバスとデザイン思考についての知識をインプットしてみてはいかがだろうか?