Webデザインやアプリの開発から、無形サービスや製品まで。企業が進める既存のビジネスや新規事業の立ち上げにも活用できるUXデザインが数年前から注目されている。しかし、UXデザインと聞いてピンとくる人は少ないのではないだろうか?
そこで本記事では、UXに重きを置いて設計されたサービスや製品の成功事例を挙げ、「UXデザインとは何か?」を読者のみなさんに解説していこうと思う。
UXデザインとはユーザーに最高の体験をしてもらうための「設計」
まず、UXデザインを一言で表すと「ユーザーが抱える悩みを解決する最高の体験」を設計することだ。UX=User Experienceの略で、直訳すると「ユーザー体験」となる。UXという言葉には前向きな意味合いが含まれているため、「最高の体験」を表現している。
どのようにUXを設計するの?
「最高の体験」をユーザーに味わってもらうために、どのようにUXを設計するのか?についてだが、プロセスが存在するので見ていこう。
1.定義
プロジェクトの目的・定義を明確にしていこう。既存のプロジェクトなら改善するための目標を決める大事なプロセスだ。
2.調査
ユーザーの課題や悩みを理解し、共感する。具体的には定量的な調査(アンケートなど)や定性的な調査(ユーザーインタビュー)を行い、ユーザーの現状を把握する。
ここをしっかり掘り下げていくことで、ユーザーの潜在的欲求を見つけることができ、質の高いUXデザインを行える。
3.設計
ユーザーの動向を俯瞰的に見ることができるカスタマージャーニーマップやよりリアルなユーザー像を見立てて共感するペルソナなどを活用しながら、プロダクトの設計をしていく。
4.試作・テスト
設計を基に試作し、チーム内でチェックしてから本格的なユーザーテストを行っていく。
5.評価・改善
テストの評価を基に改善を行っていく。
上記した1〜5のプロセスを踏んでいくのだが、順番はこの限りではなく、満足いくまで繰り返していく。そしてユーザーの満足度を常に高く保つためには、ローンチした後も継続的に調査を行い、設計、テスト、改善のプロセスを積み重ねていく必要がある。
また、UXデザインをする上で、大事なポイントが2つある。
1.ユーザー視点で設計する
ユーザー視点、というのは「ユーザーにとっての使いやすさ」と「ユーザーにとって便利なもの」という要素が大きい。
“使いやすさ”というのは、Web・アプリ系だと操作がしやすい、見やすいなどであり、製品であれば誰でも扱いやすい、などである。もう一つの”便利なもの”というのは、「こういうサービス、製品があるといいのに」というユーザーの求めるニーズを指す。
これら二つの要素を満たすために、ユーザーから様々な方法で情報を集め、それらを基に設計していく。
2.潜在的な欲求を解決できるように設計する
“ユーザーのニーズを満たすこと”を重点に設計されたサービスや製品も数多くあるが、それだと他の競合と似通ってしまい、コモディティ化が進んでしまう。
そこで重要なのが「潜在的な欲求」だ。「潜在的な欲求」とは、ユーザーすら気づいていない潜在的ニーズのことであり、それらを満たすことで顧客満足度を高めることができるため差別化につながる。そんなビジネスにおいても非常に重要な「潜在的な欲求」は、UXを基に設計することで引き出せる可能性があるのだ。
良質なUXが話題のwebサイト・アプリ事例
クックパッド
<出典>クックパッド株式会社
https://cookpad.com/
献立を考えるときに、web検索でレシピを調べるという方もいるだろう。国内で5,000万人以上が利用するレシピ検索の大手サイト「クックパッド」は簡単に検索できる優れた操作性が魅力だ。
無料サービスでは、食材からレシピの検索ができるほか、一般ユーザーがレシピ提供している「みんなのレシピ」、単品だけではなく、食卓を構成する「献立」も検索することができる。
また、有料のプレミアムサービスに入会すると、料理家や有名人が考案した「有名人のレシピ」や評価の高い「殿堂入りレシピ」、栄養面などに配慮した「専門家厳選レシピ」を閲覧できるなど、ユーザーの「レシピを知りたい」というニーズをあらゆる角度から網羅している。
【UXデザインに優れている点】
- 献立やレシピのあらゆる悩みを解決できるよう、検索ニーズを網羅している
【競合サービスと違う点】
- 340万件と日本最大級のレシピ数を誇り、アレンジレシピも豊富なのでマンネリ化しない。
Google Earth
好奇心旺盛な方なら、Googleが開発したGoogle Earthを一度は試したことがあるのではないだろうか?Google Earthを立ち上げるとバーチャル地球儀が登場し、カーソルでぐるぐる地球を回して気になる国・地域を見つければズームやクリックでその場所の航空写真を見ることができる。
また、青く表示されている場所にについては、その場にいるような視点「ストリートビュー」で閲覧することができ、椅子に座りながら旅行をしてるかのような体験ができる。
【UXデザインで優れている点】
- 地球儀を回しているかのような直感的でノンストレスな操作性
- ユーザーが興味のある国・地域をリアルな航空写真やストリートビューで見ることで得られる「旅行しているかのような体験」
【競合サービスと違う点】
- 平面の地図を使ったアプリはあるが、3Dマップは他にはない
- 世界中の人が誰でも無料でアクセスできる(圧倒的な優位性)
Tinder
<出典>MG Japan Services 合同会社
https://tinder.co.jp/
ここ数年で急成長を見せるマッチングアプリ。その中でもTinderは若い男女に人気である。自分の住んでいる地域、年齢、仲良くなりたい性別などを入力すると、条件に合った人の写真とプロフィールが画面上に表示される。
人気の理由は、容姿やプロフィールを基に「好みか?好みでないか?」をスワイプすることで決められる単純明快な操作性と手軽さにある。相手も自分のことを「好み」だと思えば、マッチングされ、アプリ上で連絡を取ることができる。
【UXデザインで優れている点】
- 画面上に表示された人が「好みか好みでないか?」という選択を気軽に操作できる。わかりやすい。
- マッチングした時、ポップアップ表示される演出により、ユーザーは嬉しさと興奮を体験できる。
【競合サービスと違う点】
- 簡単にプロフィール作成することができ、すぐ気軽に始めることができる
- 非常にシンプルでわかりやすいUIかつオシャレ
Shazam
<出典>Shazam
https://www.shazam.com/ja/home
「この音楽ってなんだっけ?」「流れている音楽の曲名が知りたい」などの経験はないだろうか?そんなユーザーの問題を解決してくれるのがShazam(シャザム)というアプリだ。使い方はとても簡単で、気になるBGMに向かってShazamを起動してかざすだけ。これだけで曲名がバッチリ分かってしまうのだ。
音を認識する能力も高く、鼻歌でも認識してくれるというから驚きだ。ダウンロード数は全世界で10億以上と、驚異的な人気と成功を収めている。
【UXデザインで優れている点】
- 気になるBGMにアプリを起動してかざすだけという簡単さ
- 気になる音楽が知ることができたという体験
【競合サービスと違う点】
・アプリの起動をせずとも音楽認識をしてくれる機能や、検出した音楽を他の音楽アプリ(App Musicなど)ですぐに再生するできるなど、ユーザーの行動を先読みした快適な操作性
note
<出典>note株式会社
https://note.com/
「つくる、つながる、とどける」がコンセプトであるnoteはクリエイターが発信する文章、画像、音声、動画などのコンテンツをユーザーが見て聞いて楽しむことができるプラットフォームである。インターネットの普及により、出版業界やマスメディアの影響力はなくなりつつある。
そんな状況を憂い、血が通わなくなりつつあるコンテンツ産業に命の息吹をふきかけようとnoteが誕生した。noteの特徴は、クリエイターが発信するコンテンツに本人がお金の価値をつけられるということ。
自身のファンが増えればコンテンツを購入する人が増えてビジネスにもなるし、ブランディングにもつながる。そうすればnoteを通じ、クライアントとのマッチングに繋がる可能性だってある。noteはクリエイターのための本拠地のようなものなのだ。
また、2017年より長年UX/UIデザインを手がけてきたTHE GUILD代表の深津氏がnoteのCXOに就任。同サービスの設計やシステムの改善を手がけている。現在、noteのMAU(月間アクティブユーザー)は6300万人を超え、クリエイターの可能性は、ますます広がりを見せることだろう。
良質なUXが話題の製品事例
ダイソン
<出典>dyson
https://www.dyson.co.jp/
「吸引力の変わらないただ一つの掃除機」、強烈なキャッチコピーと共に現れたダイソンの掃除機は革命を起こした。しかし、その道のりは平坦なものではなく、1991年に日本で発売されたサイクロン掃除機「G-Force」は5年もの歳月と5127台という途方も無い試作機の先にある賜物なのだ。
その後、「G-Force」の売上を基にダイソン社を設立し、世界でも有数のシェアを誇る大企業にまで発展することとなる。
なぜここまで成功を手にすることができたのか?その理由はいたってシンプルだ。
徹底したプロトタイピングの追求
創業者のジェームズ・ダイソンはdysonの公式HPでこのように語っている。
“誰もが感じるように、きちんと機能しない製品に対して不満を感じます。デザイン エンジニアとして、その不満を解決する方法に取り組みます。発明と改善がダイソンのすべてです”(引用元:https://www.dyson.co.jp/community/about-dyson.aspx)
ダイソンが業界のトップシェアを維持し、進化し続ける理由はこのマインドにあるだろう。ダイソンのエンジニアは、常にユーザーの声に耳を傾け、悩みや問題を抽出し、プロトタイピングを繰り返していく…失敗を恐れずに挑戦していく姿勢がダイソンの本質なのだ。
【競合製品と違う点】
- 圧倒的なユーザー視点に基づくプロトタイピング(その試作数5,000台以上)
良質なUXが話題のサービス事例
スターバックスコーヒー(非日常的でハートフルなサービスが生み出すリッチな体験)
<出典>スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社
https://www.starbucks.co.jp/
日本全国に1601店舗展開しているスターバックスコーヒー(以下スタバ)を利用したことがある、という方は多いのではないだろうか?スタバがユーザーに提供する価値は「リッチな体験」だ。
店内に入ると、笑顔で温かく迎え入れてくれるスタッフ、オーダーをしてから作ってくれる臨場感、カップを受け取った際に書かれている感謝のメッセージなど、実は随所に「リッチな体験」を意識した内容が盛り込まれているのだ。
- スタバにいると、居心地がいい
- スタバにいると、オシャレになった気がする
- スタバにいると、仕事や勉強に集中できる
こういった体験を価値として提供しているのがスタバの強みであり、日本で人気が尽きない理由だ。
【UXデザイン で優れている点】
- ユーザーの潜在的欲求(洗練された空間でオシャレでいたい、フレンドリーでホスピタリティ溢れるサービスを受けたい、など)を解決する体験ができる。
ネットフリックス(ユーザーを飽きさせない「おすすめ表示」と「人気作品表示」に注力する)
<出典>Netflix
https://about.netflix.com/ja
動画配信サブスク系サービスで今一番勢いのあるネットフリックス。日本の有料会員数は300万人を突破し、全世界で見れば2億人を突破するのは秒読み状態だ。
そんなネットフリックスの優れたUXデザインとは何か?
- イントロスキップ、次のエピソードにすぐ進めるスムーズな操作性やわかりやすいUIデザイン 。
- おすすめとして表示されるユーザーの好みを反映させた作品の精度が高い。
である。
実はこの2点は、ネットフリックスが日常的に行なっている膨大なリサーチをもとに取り入れられたものなのだ。
【定性的・定量的な調査の両方を行い、テストを繰り返す。】
- ネットフリックスのチームには、アンケートやデータをもとにユーザーの動向を分析し、グループインタビューなどでユーザーの欲求やニーズを見つけ出し、UXの向上に役立てていく。
【競合サービスと違う点】
- 視聴履歴からユーザーの好みを細やかに把握し、その人に合わせた最適なおすすめ作品を提供するため、作品一つ一つに独自のタグ設定を行なっている。※タグ設定専門の人がいる
UXを重視することで、新たなモノ•コトを生み出すことができる!
良質なUXデザインによって成功した事例を紹介してきたが、全てのプロダクトに共通して言えることは「ユーザーを良く見ていること」だ。ユーザーの動向、ニーズを事細かに観察することで既存ビジネスの改善に役立てることができるし、新規ビジネスの発案・設計にも役立つ。UXデザイン といえば、webやアプリケーションに必要なツールだと思っている方が多いと思うが、製品やサービスにも活用できることを知っていただけたら幸いだ。