『人間中心設計』という言葉を初めて知った人にとっては、とっつきにくい用語だろう。
私自身、『人間中心設計』専門家という資格まで取ったが、いまだに好きな言葉ではない。
これから出来る限りわかりやすく『人間中心設計』について紹介していくが、初めに、いわゆる”教科書に書いてある定義”を紹介しておこう。
『ISO 9241-210:2010』における『人間中心設計』の定義は以下のとおりだ。
人間中心設計とは、システムの使い方に焦点をあて、人間工学やユーザビリティの知識と技術を適用することにより、インタラクティブシステムをより使いやすくすることを目的とするシステムの設計と開発へのアプローチである。
※『人間中心設計の国際規格ISO9241-210:2010のポイント』のP7より引用
私は10回ほど繰り返し読んでみたが、正直何のことかさっぱりわからなかった。
人間中心設計は難解な用語などではなく、UXをよりよくする上で重要なプロセスだ。
この記事が少しでも『人間中心設計』の考え方を理解する上で役に立てば幸いだ。
1. 人間中心設計(HCD)とは
UX JUMPが定義する人間中心設計は以下のとおりだ。
人間中心設計とは、ユーザーを中心において製品やサービスを開発する反復(PDCA)プロセスである。
人間中心とは
早速、『人間(=ユーザー)中心』がどういうことなのか、今読んでいただいているこの記事をサービスと置き換えて紹介してみよう。
ユーザー中心ではないサービス
私は人間中心設計専門家だ。
↓
きっと読み手は私が書きたいことを読みたいに違いないから記事を書こう。
ひょっとしたら、読みたいという人もいるかもしれないが、このアプローチでは、読み手の数は限定されるだろう。
ユーザーを中心としたサービス
「人間中心設計」と調べた人はどんなことを知りたいのだろう?
どうすれば、もっと理解が促進されるだろうか?
↓
まずは、『人間中心設計』が小難しい用語であると共感していくところからはじめよう!
ユーザーを中心におくということの意味が分かっていただけただろうか?
「いやいや、そんなことは言われなくてもやっている」
「お客様視点なんて商売の基本でしょう」
と思う人も多いだろう。実際に、事業会社などを訪問するとよく言われることだ。
しかし、これが簡単なことのようで、意外と難しいことなのだ。
特に大企業などでは、定量的なデータ活用はあっても、現場で聞いたユーザーの生の声が最終的な意思決定の要素としてマーケティングや戦略部門で利用されていることはほとんどないのが実情だ。
人間中心設計(HCD)とは
人間中心設計について改めてこの記事を事例として解説しよう。
先ほど、ユーザーを中心に考えることで読み手の立場に立って記事を書くことが出来るということを紹介してきた。
人間中心設計とは、ユーザーの体験をよりよくしていくプロセスなので、一回限りのものではない。
この記事を例にすると、1回書き上げたら、それからどんどん読み手の声を反映したりしながら、PDCAを回してより良く改善していくことが、人間中心設計なのだ。
UXデザインを専門とすることが無いビジネスマンはここまでのイメージを理解してもらえたら十分だ。
是非、今日から人間中心設計の考え方で業務にあたってみてほしい。
2. 人間中心設計の6つの原則
ざっくりとした人間中心設計の考え方を紹介してきたため、より良いUXを生み出すための6つの原則を紹介していきたい。
『ISO 9241-210:2010』における『人間中心設計の6つの原則』の定義は以下のとおりだ。
- ユーザー、タスク、環境の明確な理解に基づいたデザイン
- プロダクト開発全体へのユーザーの参加
- ユーザー中心のデザインや思考に対する評価の実施、および洗練
- プロセスの繰り返し
- ユーザー体験(UX)全体を通して取り組むデザイン
- 学際的なスキルと視点を含むデザインチーム
※『人間中心設計の国際規格ISO9241-210:2010のポイント』のP8より引用したものを改変
この原則を一つ一つ、出来る限りわかりやすく解説していこう。
ユーザー、タスク、環境の明確な理解に基づいたデザイン
『ユーザー、タスク、環境の明確な理解』とは、どんなユーザーがどういう理由で、どんな状況で利用しているのかについて、ちゃんと理解できてるよね?ということだ。
例えば、5W1Hでしっかりと説明できる?ということが前提として問われている。
Who(だれが)When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)
プロダクト開発全体へのユーザーの参加
『デザインと開発全体へのユーザーの参加』とは、単純にユーザーと一緒にデザインしましょう!というほど生やさしいものではない。
第一の原則、『ユーザー、タスク、環境の明確な理解』を知るために、仮にユーザーをAさんと呼ぶとしたら、Aさんとはいったいどんな人物で、何故その製品やサービスを利用することになったのかということを明らかにすることから始めていく。
『参加』というよりもガッツリとサービスづくりに協力してもらうというイメージだ。
ユーザー中心のデザインや思考に対する評価の実施、および洗練
『ユーザー中心の評価によるデザインの実施と洗練』を、再度この記事を例に解説してみよう。
ユーザー中心ではない評価
これを書きたかったのに、書いてなかったから書き足そうという判断を下す
ユーザー中心の評価
読み手からHCDの序文が長すぎると言われた。どうしても書きたかったが、もっと短縮してみよう。
上記のように、PDCAを回す際の評価基準はあくまでユーザーを中心にしておこうということだ。
プロセスの繰り返し
しっかりと繰り返しPDCAを回すことが前提ということだ。
一度回して終わり、という会社は残念ながら本当に多い。
特に外部のデザイン事務所に依頼して、1度結果が出なかった際に打ち切りというパターンは数えきれない。
ユーザー体験(UX)全体を通して取り組むデザイン
ユーザーの「使って良かった!」「うれしかった!」(=UX)が作りやすくなるプロセスが、人間中心設計(HCD)だ。
人間中心設計を回すことが目的になってしまうことが多いため、原則に組み込まれている。
学際的なスキルと視点を含むデザインチーム
より良いUXを実現していくためには、レベルの高いチーム編成が重要ということだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
3. 人間中心設計のプロセス
人間中心設計のプロセスは以下のとおりだ。
利用者・対象者を正しく知る
まずは、ユーザーの利用状況を徹底的に把握するため、手段としては、アンケート、インタビュー、フィールド調査など様々な手法が存在するが、大切なのはユーザーがサービスに触れている現場をよく観察することだ。
そこから今まで見えていなかった課題や問題点を洗い出し、サービスをアップデートするきっかけを作っていく。
手法
アンケート、インタビュー、フィールド調査/観察(実際に外に出向き行動を観察)等
問題を定義する
課題や問題点を洗い出したら、ユーザーの意図に沿った設計に落とし込んでいく段階に入る。
サービスを提供する側の思想と、ユーザーが本質的に求めている価値を、繋ぎ合わせていく。
注意すべき点
インサイト(人を動かす隠れた心理)の整理やコンセプト設計をしている段階で、気がつくと「ユーザーが本質的に求めている価値」を中心に議論していなかった。という事例が非常に多いので注意してほしい。
あくまでもユーザーの要求を満たすためのサービスという視点が重要だ。
その上で、以下のような手法を使い、ユーザーの問題を定義し、設計に落とし込んでいく。
(手法):ペルソナ設計、カスタマージャーニーマップ、シナリオ法、バリュープロポジションキャンバス
プロトタイプを作る
「プロトタイプ=試作品」を作成していくが、そもそもなぜ時間をかけてまで試作品を作るのか?
答えは「ユーザーからしか正解を導き出せないから」だ。
仮に、最高傑作のサービスが出来上がったとサービスを提供する側が判断してリリースしたとしても、全く売れない、全くダウンロードされない、などということは、当たり前のように起こる話だ。
プロトタイプは、失敗の確率を減らすために、先ずはユーザーに利用していただき、反応を読み取り、よりユーザーの欲求に近づけてからリリースするために行われる手法なのだ。
手法
ペーパープロトタイプ、プロトタイプツール(Prott、Figma)を活用したモックアップ作成、等
サービス評価
作成したプロトタイプを実際に想定ユーザーに利用していただき、反応を見て分析していく。
大切なのは、ここまでのプロセスを1度回して終わりにしないということだ。
サービス提供者側からすると、ほとんどのケースでGOODな評価を頂くことは無い。これは、どんなに優秀なサービス提供者でもそうだ。
そのため、改めて「利用者・対象者を正しく知る」というフェーズに立ち返り、サイクルをスピーディーに回すことが重要だ。
手法
ヒューリスティック評価、認知的ウォークスルー、プロトコル解析、操作ロギング等。
4. 人間中心設計を知ってしまったなら、まずはここから始めてみよう
人間中心設計について、出来る限り平易な言葉で解説をしてきた。
「はじめて人間中心設計の考え方」を知ったという人は、まずはUXで同じように、身近な「家族・仲間・恋人」を喜ばせてみることからはじめてみよう。
その上で、喜んでもらえているか、喜んでもらえていないのであれば何故なのか?を考えてみて、PDCAを回してみよう!
すぐに、人間中心設計の実務家としての経験を積むことが出来るだろう。