ユーザー体験を向上するために実施した「デザインスプリント」の流れと、効果を合わせて解説!
株式会社アイエンターが運営するiPad無人受付案内システム「I-FACE」を2020年6月にデザインリニューアルした。UXを進めていく上で感じたことや、なぜ問い合わせ数を12倍に増やすこと出来たのか?について書いていく。
今回、I-FACEリニューアルの流れをここで紹介することによって、これからUXを行いたい企業やデザイナーに、少しでもプラスになれば幸いだ。
それでは、本題に入ろう。
「I-FACE」が抱えていた大きな課題とは?
- I-FACEならではの価値の言語化ができておらず、競合他社との差別化が図れていなかった。
- ユーザーニーズの抽出はしていたが、それらを直接的に改善する体制が整っていなかった。
- 販促の手法がどうしても営業頼りになっていた。
- レガシーなUIデザインで操作性に問題があった。
- ユーザーニーズを抽出した上での設計ができていなかったため、クレームが多く発生していた。
上記課題の中で、特に「ユーザーニーズを考慮していない設計によるクレーム多発」は大きな課題だった。そこで、ユーザー体験を大きく向上させるために「デザインスプリント」という手法を用いて、ユーザーニーズと経営戦略を掛け合わせながら、リニューアルしていくことにした。
ユーザー体験を向上させるために選んだ「デザインスプリント」
米国グーグルで生まれたデザインスプリント(以下、スプリントとも表記)は、たった5日間で、デザイン、プロトタイピング、ユーザーへのアイデア検証を行い、ビジネス上の問題に答えを出すためプロセスのことで、オンライン上では「黄金メソッド」などと呼ばれている。
スプリントは、FacebookやAirbnb、Blue Bottle Coffeeをはじめとするサンフランシスコ・ベイエリアの最先端企業から、国際機関、非営利組織、学校などでもすでに採用されており、大きな効果を上げている手法である。
DAY.1(理解)
【ユーザー調査】
現場に1番近いプロダクトセールスの統括者を主軸とし、リアルな現場で30名以上にインタビューを実施しながら、ユーザーの感じているペイン(悩み)を洗い出していった。
※一部抜粋
【理解する、今回取り組むべき課題を共有する】
- I-FACEならではの価値の言語化ができておらず、競合他社との差別化が図れていなかった。
- ユーザーニーズの抽出はしていたが、それらを直接的に改善する体制が整っていなかった。
- 販促の手法がどうしても営業頼りになっていた。
- レガシーなUIデザインで操作性に問題があった。
- ユーザーニーズを抽出した上での設計ができていなかったため、クレームが多く発生していた。
上記のような課題がある中で、経営メンバーからも、サービスに対する課題を抽出していった。
【ユーザーニーズを抽出し、ペルソナを作成】
ユーザーインタビューに協力頂いた方々の特徴や、ペイン(悩み)を元に情緒的な価値観や、数値的なデータを統合してペルソナを作成していった。
(実際のペルソナは戦略に直接関わる情報のため、ぼかしを入れている。)
【ペルソナの行動を可視化するためのカスタマージャーニーマップの作成】
ペルソナの行動・感情・思考・課題・解決策(アイデア)を時系列に沿って可視化し、チーム全体で認識を合わせていった。
DAY.1(理解)では、ユーザーのペイン(悩み)を多く引き出し、認知フェーズから利用フェーズまでのどこで問題が起きているのか?を鮮明に洗い出していった。これを行うことによって、次の「発散フェーズ」で、戦略が立てやすくなるのだ。
DAY.2(発散)
【バリュープロポジションキャンバス】
バリュープロポジションキャンバスを用いて、ユーザーの抱える課題と現状のI-FACEを比較しながら、双方でズレが生じている部分を可視化し、ユーザー課題を解決するアイデアの発散を行っていった。
STEP1
まずは、DAY1で理解したユーザーのペイン(悩み)などの情報をもとに、上記図の右側にある顧客セグメントを埋めていった。
・Customer Job(s) …顧客が解決したい課題(欲求)
・Gains …顧客の利得(プラスに感じる)
・Pains …顧客の悩み(マイナスに感じる)
STEP2
次に、図の左側「顧客への提供価値」に、I-FACEとして現時点で顧客に提供できている価値を書き出していった。
・Products & Services …製品やサービス
・Gain Creators …顧客の利得をもたらすもの
・Pain Relievers …顧客の悩みを取り除くもの(不便・不満を解消してくれる)
ここでポイントとなるのが、図の右側の顧客セグメントを先に埋めることだ。 そうすることで、サービスありきの企業側の一方的な思い込みにとらわれることを避け、正しく顧客ニースを把握できるようになる。
STEP3
続いて、図の右側「顧客セグメント」と左側の「I-FACEとして現時点で顧客に提供できている価値」を比較しながら、顧客の課題やニーズとのズレが生じている部分を洗い出し、それを解決するアイデアを発散していった。
そして、アイデアを発散していく過程の中で、I-FACEの顧客への提供価値は「変化とスピード感」という方向に集約されていった。
DAY.3(決定)
【アサンプションマップで課題の優先順位を決める】
バリュープロポジションキャンバスで洗い出した課題を整理するために、縦軸「ビジネスへの影響度」、横軸「ユーザーへの影響度」のアサンプションマップを用いて、ユーザー視点とビジネス視点の両面から考え、優先順位を決めていった。
アサンプションマップの右上は、ビジネス・ユーザー双方にとって影響度が高いため、優先して取り組むべき課題だ。
DAY.4(プロトタイプ)
いよいよアイデアを形にしていくフェーズに入った。ここで大事なことは、ユーザーが主役であることを、再認識した上でプロトタイプを設計していくことだ。
まず、情報設計では、前フェーズまでの結果をもとに利用頻度の高い機能と、優先度は低いが、対応する必要がある機能を整理していった。
また、アイデアを発散していく過程の中で生まれた「変化とスピード感」という、I-FACEの顧客への提供価値にこだわり、下記のような機能も設計した。
【課題】
受付時、I-FACEの操作に迷ったユーザーが、打ち合わせ予定の担当者を呼び出せず、総合受付に連絡してしまうケースが多発した。
【改善策】
来客者がQRコードをかざす、もしくは受付番号を入力するだけで、スピーディに担当者を呼び出せる機能を設計。
※実際のプロトタイプ画面(一部抜粋)
DAY.5(ユーザーテスト)
ユーザーテストは、I-FACE顧客である4社に打診し、約15名のテストユーザーを集めて、2日間実施した。
・調査場所:執務スペース
・対象人数:15人
・時間:1人あたり45分
・環境:執務スペースに仮設受け付けを設営(簡易的なもの)
※実際のテストの様子
ユーザーテストを進めていくと、今回のI-FACEリニューアルのポイントとなる「QRコード」による受付で、一部のテストユーザーが難色を示した。年齢的にQRコードよりも、電話受付に慣れていたためだった。
ユーザーテストでは、テストストーリー事に点数をつける点数表を作成しており、上記のように高評価、低評価の意見が分かれた場合に、点数表を見ながら総合的に判断していく。
リニューアル
5日間のデザインスプリントが終了した。 リニューアルにより、今までのI-FACEから大きく変化し、受付から担当者呼び出しまで、スピード感ある操作を実現できた。
その結果、I-FACEの導入に関する問い合わせが、今までの12倍に増加している。
プロダクトセールスの統括者と今回の体験改善を振り返る
リニューアルプロジェクトを一緒に進めてきた、プロダクトセールスの統括者の八鍬氏に、改修前と改修後の変化、今後の展望について語ってもらった。
(左) I-FACEプロダクトセールス統括者 八鍬氏(以下、敬称省略)
インタビュアー:I-FACEに携わり始めたのは何年前ですか?
八鍬:丸5年くらい経つかな。
インタビュアー:そんなに長く!ってことは3年半ほぼ改修してないってことですか?
八鍬:そうだね。途中のファーストバージョンは若干UIを変えてセカンドバージョンにしたんだけど、セカンドバージョンにして一気にシェアを広げつつ収益モデル化させるってのを目的に進めて、ある程度見込みと実績ができたのが、ちょうど3年目の終わりくらいの時だった。その時はデザインも体験も全然考えられてなくて、とにかく営業力で売っていた。
インタビュアー:なぜUXデザイン=体験をデザインすることにフォーカスしたのですか?
八鍬:やっぱり、販売台数が多くなっていけばいくほど、お客様の小さなひと声を真摯に受け止められなくなっていたことが原因で、クレームや解約数が多くなってきていたこと。
もう一つは、とあるお客様から「使っていてストレス!!どうにかならないの?」という言葉を受けたときに”ハッ”としたこと。本質的に現場で何が起きていて、どんなクリティカルな課題があるのか全然見えてなかったことを痛感した。
インタビュアー:なるほど!だから沢山のユーザーの声を集めていたんですね。
八鍬:そうそう
インタビュアー:実際にユーザー体験を改善するために選択した「デザインスプリント 」を体験してみて如何でしたか?
八鍬:率直に楽しかったよね!だいぶハードだったけど笑
楽しかった理由は2つあって、1つ目は「ユーザーの声を反映させることの難しさを知れたこと」。これは、ただ欲しい機能を入れるだけだったら技術的にクリアしていれば簡単なことだとだけど、そもそも考え方が全然違った。
体験を改善させるってのは、お客様が“無意識的にムダな作業をしていること”にフォーカスして、脳みそ使わなくても自然に「体とサービス」がストレスの感じない状態を作りあげることなんだな!と理解できたこと。
2つ目は、体験改善はデザイナーだけがやることではないって心底思えたことで、プロダクトマネージャーとして出来る事の幅が増えたことだね。
インタビュアー:沢山のユーザーの課題を集めていたと思うのですが、今回のリニューアルでその課題はどの程度解消できましたか?
八鍬:問い合わせや売り上げが伸びてるのは嬉しいことだけど、まだまだお客様の悩みは尽きないので改善できることは多くあると思ってる。でも今回の改善で50%くらいの課題は改善できたのかなと思ってる。
インタビュアー:もっとスピード感上げて繰り返し改善していきたいですね。
八鍬:だね!引き続きお願いします!
インタビュアー:では、今回のデザインスプリントを終えて、改善する前と、今で一番大きく変わったことは何ですか?
八鍬:お客様に見せたときの一発目の声かな。UIデザインとスムーズさの反響はあるよね、納品の日とかは結構びっくりされる、めっちゃくちゃ使いやすくなりましたね!って。
あとは、ブレないコンセプトを定義したことで販売しやすくなった。例えば提案書もこだわって作成してくれたので、説明がすごい簡単なのは助かってる。細かい部分の説明はビジュアル見せながら出来るので、一石二鳥だよね。
インタビュアー:最後に今後の展望を教えてください。
八鍬:おかげさまで販売台数は伸びている状態ではありますが、先ほど話したように、販売台数が伸びれば伸びるほど、お客様の課題は大きくなってくるので、“強度のあるサービス”にしていきたいなって考えてます。「スピード感」というコンセプトをブラすことなく、これまでのお客様、これから新しくおつきあいさせて頂くお客様、どちらにも喜んでいただけるサービスに発展させていけたらなと思ってます。
インタビュアー:貴重なお時間ありがとうございました。
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